📚江國香織『すいかの匂い』読書会レポート|あらすじと感想(第40回)

📚若い読者のための短編小説読書会

2025年8月21日(木)第40回目の短編小説読書会を行いました。今回は6名での開催となりました。

今回のテーマは江國香織『すいかの匂い』でした。

江國香織『すいかの匂い』のあらすじ

すいかを食べると、九歳の夏を思い出す。
母が出産を控えていたため、夏休みのあいだ、私は東京都羽村町の叔母夫婦の家に預けられた。遊び相手のいない私は、早々にホームシックにかかり、家を飛び出して迷子になり、見知らぬ町をさまよった。日が暮れかけたころ、一軒の家に明かりが灯っているのを見つける。中からは少年たちの声が聞こえてきた。そっと覗き込もうとしたとき、女の人に見つかり、家の中へ招き入れられた。

そこにいたのは、ひろしくんとみのるくんという双子の男の子だった。二人は肩から腰までがくっついていて、胴の真ん中からいびつな手が一本ぶら下がっていた。おばさんは「さ、とりあえずおあがりなさい」と優しく声をかけ、私を食卓に招いた。夕飯の席で、みのるくんはまったく食べず、食後のすいかだけを平らげた。蟻が群がっていても気にしない様子だった。

二人は学校に通っておらず、家にこもりきりのようだった。おばさんは熱いタオルで私の身体を拭き、私に学校や友達のことをしきりに尋ねた。私は学校なんて好きではなかったが、正直に言えば帰れなくなる気がして、嘘をついた。

夜になると、双子は扇風機に声をあてて遊んだ。私も一緒になって笑ったが、みのるくんは「きっともう会えないから」と言って、そっと私の頬に触れた。ひろしくんは咎めたが、みのるくんはやめなかった。布団に入る前、おばさんは二人にミルクセーキを飲ませ、「いつかお金を貯めて手術をする」と語った。ひろしくんは苛立って「このままでいい」と言い張ったが、おばさんは「人間は一人ひとりで生きていくべきだ」と諭した。みのるくんは黙っていた。

翌朝、目を覚ますと、ひろしくんもみのるくんもおばさんもいなかった。代わりにおまわりさんと叔母夫婦、おばあさんが立っていた。今朝早く、女の人が交番に「空き家から女の子の声がする」と届け出たのだという。おまわりさんは「ここは長いあいだ空き家だ。おそらくルンペンだろう」と言った。私は必死で「昨日は女の人がいた」と訴えたが、誰も信じてくれなかった。

それから間もなく、母は弟を出産した。

初読の感想

まずは「審査員になったつもり」でこの作品を評価し、感想をシェアするところから始めました。

Jさん<br>★★★★☆
Jさん
★★★★☆

読みやすい作品ですが、人物や風景の描写が秀逸だと思いました。
ミステリアスな感じもいいですね。
ちょっと短く感じました。もう少しひねりがあっても面白いかもしれません。

Sさん<br>★☆☆☆☆
Sさん
★☆☆☆☆

田舎に帰省するようなノスタルジーな感じが良かった。しかしいきなりすごい兄弟が出てきて謎な感じがよくわからなかった。
文章が受験で出てきそうな感じもした。

Kさん<br>★★☆☆☆
Kさん
★★☆☆☆

主人公が等身大で共感が持てたのが良かった。しかしいきなり謎な兄弟が出てきてなぜこの話なのかがよくわからなかった。この兄弟との出会いを通して変化も感じられず、微妙な終わり方だと思った。

Tさん<br>★★☆☆☆
Tさん
★★☆☆☆

江國香織さんの作品はいくつか読んだことがあるが、恋愛のイメージが強かった。今回はちょっとイメージと違った。すいかというポジティブな印象のある果物に対して、気持ち悪いイメージを付与できる力量はすごいと思った。
上半身がくっついている双子の兄弟は、ベトナム戦争の奇形児を思い出した。推測になるが、書かれた時期がベトナム戦争に近かったのではないか。
心霊的な体験だが、肌に触れたり身体を拭いてもらったりという接触があるところが不思議。
人は一人一人で生きていくべきだ、など大人の価値観と子供の対立のような場面もあった。

Mさん<br>★★★★☆
Mさん
★★★★☆

個人的には好きな作品だった。この体験があってお姉ちゃんになれたんだなとも思う。ルンペンという言葉が分からなくて調べたが、「浮浪者」という意味で、差別用語になっているから今は使われないらしいと知って勉強になった。
この私の中では何かのきっかけになるような出来事だったのだと思う。

Yuya<br>★★★★☆
Yuya
★★★★☆

分かりそうで分からないという絶妙な感じが個人的には好きです。すいかを食べると9歳の夏を思い出す、という書き出しから、この少女にとって印象に残る出来事だったのたと思う。それがどんな意味を持つのかは書かれていないので、そこを想像していく余地があると思いました。

今作の選定理由

夏らしい作品を読んでみたいと思い、この作品を選びました。私の読書会では季節感を大切にするように心がけているので、夏の空気を感じられる物語はちょうどいいと思ったんです。江國香織さんの作品を取り上げるのは今回が初めてで、その新鮮さも選んだ理由のひとつです。

まとめ

今回は江國香織『すいかの匂い』を、参加者の皆さんと意見を交わしながら読み進めました。多角的に読み解ける作品で、感想をシェアする中で新たな視点に気づかされることも多く、とても刺激的な時間となりました。

次回の読書会も、新しい物語と出会い、語り合えるひとときになることを楽しみにしています。初めての方も、どうぞお気軽にご参加ください!

次回は、谷崎潤一郎の『刺青』を取り上げます。青空文庫に収録されており無料で読むことができます。

日程は決まり次第、こちらのブログにてお知らせします。

次回のご参加も心よりお待ちしております。

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