2026年1月19日(月)第42回目の短編小説読書会を行いました。今回は5名での開催となりました。
今回のテーマはO・ヘンリー『最後の一葉』でした。
O・ヘンリー『最後の一葉』のあらすじ
20世紀初頭、ニューヨークの芸術家が集まるグリニッジ・ヴィレッジ。その古いアパートの最上階には、スーとジョーンジーという二人の若い女性画家が暮らしていました。
ある冬のこと、この街に肺炎の流行が襲い、ジョーンジーもその病に倒れてしまいます。病状は重く、何よりも彼女自身が生きる気力を失っていました。ジョーンジーは寝床から窓の外に見えるツタの葉を眺め、風に吹かれて一枚、また一枚と散っていく様子を数えながら、「最後の一枚が落ちるとき、私も死ぬのだわ」と口にするようになります。
親友のスーは彼女を懸命に励ましますが、ジョーンジーの絶望は深く、ただ終わりの時を待つばかりでした。困り果てたスーは、同じアパートの階下に住む老画家ベアマンに相談します。ベアマンは「いつか傑作を描いてみせる」と豪語しながら、40年もの間、何ひとつ描き上げることができずに酒浸りの日々を送っている変わり者でした。彼はジョーンジーの弱気な考えを「馬鹿げている」と鼻で笑いますが、内心では彼女たちのことを深く心配していました。
その夜、激しい雨と冷たい風が吹き荒れる凄まじい嵐が街を襲います。ジョーンジーは「翌朝にはきっと最後の葉も落ちているだろう」と確信し、眠りにつきました。
翌朝、彼女が覚悟を決めて窓の外を見ると、驚くべき光景が目に飛び込んできます。激しい嵐を耐え抜き、たった一枚のツタの葉が、いまだにレンガの壁にしがみついていたのです。 その翌日も、さらに追い打ちをかけるような激しい雨風が吹きましたが、葉は決して落ちることはありませんでした。
その健気で力強い葉の姿を見て、ジョーンジーは自分の弱さを恥じ、「死にたがるのは罪なことだった」と再び生きる意欲を取り戻します。彼女の病状は、それから急速に回復へと向かいました。
数日後、すっかり元気になったジョーンジーに、スーが悲しい真実を告げます。あの嵐の夜、ベアマンが急な肺炎で亡くなったというのです。
初読の感想
参加者の自己紹介をし、まずは「審査員になったつもり」でこの作品を評価し、感想をシェアするところから始めました。

(看護師)
★★★★☆
初めて読んだ作品でした。「病は気から」という言葉がありますが、実際の仕事の現場を見ていてもそう思うし、自分の気力というものが医学的な見解を上回ってしまうというのは身に覚えがあります。
あと作品の中に日本製のナプキンが出てきて、この当時から日本製のものが身近に出回っていたんだということが意外でした。

(トレーナー)
★★☆☆☆
普段あんまり本を読まないので読書をするきっかけになればという思いで初めて参加させていただきました。評価はまだ他の作品をよく知らないので暫定でつけさせていただきました。
今回の作品を読むにあたって、違う訳者の本を読み比べてみたのですが、それぞれの訳の違いがあってその辺も面白いと感じました。

(事務)
★★★★☆
暗い話なのかなと思った。作者がベアマンを殺した理由が気になったが、やはりベアマンが肺炎で亡くなったという終わり方にすることで、美しい自己犠牲というテーマが成り立つのかなと感じた。
ベアマンが売れていない芸術家という設定が、最後の犠牲をより際立たせているように思う。

(クリエイター)
★★★★☆
言葉の言い回しがかなりオシャレ。物語の中盤、ベアマンが登場する場面で、彼が40年間筆を握りながらも成功しなかったことを描写する際に「……芸術(という女神)の衣の裾に触れるほどにも近づけぬまま、40年ものあいだ筆を振るってきたのだ。」とあって、あまり見慣れない表現だが印象に残った。
構成が異常に美しい。葉っぱと命という無関係そうに見えるもの同士も、事前に伏線が張ってあってかなり上手だなと感じた。最後のベアマンの死も美しい終わらせ方だと思う。
欠点はあまりないが、個人的に暗い話があまり好きでないからマイナスなのと、主人公ジョンジーやスーの変化があまり見られずに終わったのが残念。続きがあれば良かったかも。

★★★☆☆
短いお話ながらメリハリがしっかりあって、完成度の高い作品。暗い話という意見が多く出たが、主人公をジョンジーではなくベアマンとして捉えると、また違った読みが可能になるのではないかと思う。
40年間評価されることなく絵を描き続けてきたベアマンが、命を懸けて「真の傑作」を描き上げる——そう考えると本作は、単なる悲劇ではなく、芸術家が救済される物語として読むこともできる。
芸術家は生前に評価されないことも珍しくなく、そもそも経済的成功や社会的名誉では測れない生き方を選んでいる場合も多い。
そうした価値観に立てば、ベアマンの最期は不幸な結末というよりも、「これでよかったのではないか」と思えてくる。
その意味で、僕自身はこの物語を、あまり暗い話としては捉えていない。
今作の選定理由
O・ヘンリー『最後の一葉』は、短編でありながら「生きるとは何か」「希望はどこから生まれるのか」「人は他者の行為によってどこまで救われうるのか」といった、本質的で普遍的な問いを含んだ作品です。
肺炎が流行する冬のニューヨークを舞台に、冷たさや孤独のなかで人の心が揺れ動く様子が描かれており、冬の物語として、1月に読むのにぴったりの一編だと考えました。
O・ヘンリーの代表作には『賢者の贈り物』もありますが、こちらはクリスマスを明確な背景とした作品であり、季節性が強いため、1月の読書会の題材としては今回は見送っています。
その点、『最後の一葉』は特定の行事に縛られることなく、年の始まりに「生きる意志」や「希望」というテーマを静かに問い直すことができます。
O・ヘンリーの生涯について
O・ヘンリー(本名:ウィリアム・シドニー・ポーター、1862–1910)は、アメリカの短編作家で、機知に富んだ結末(いわゆる「オチ」)と、人間への温かなまなざしで知られています。
しかしその人生は、決して順風満帆なものではありませんでした。
1. 職を転々とした青年時代と「薬学」
彼は最初から作家だったわけではありません。薬剤師の免許を持ち、テキサスでは銀行員や新聞記者も務めました。『最後の一葉』では病状や看病の様子が細かく描かれますが、これは彼の薬剤師としての知識がベースになっています。
2.逃亡、投獄、そして「名前を捨てる」
彼の人生の最大の転機は、銀行員時代の公金横領の疑い(冤罪説もあります)です。
- 逃亡と悲劇: 彼は中米のホンジュラスへ逃亡しますが、愛する妻が病気(結核)で危篤との報せを受け、捕まるのを覚悟で帰国します。妻の死後、彼は投獄されました。
- ペンネームの誕生: 刑務所の中で、娘に仕送りをするために短編を書き始めます。「元囚人」という前科を隠すために使ったのが「O・ヘンリー」という名前でした。
3. ニューヨークの「バグダッド・オン・ザ・サブウェイ」
出所後、彼はニューヨークへ移り住みます。彼はこの大都会を「地下鉄のあるバグダッド(千夜一夜物語のような不思議な街)」と呼び、名もなき市民の生活を愛しました。
- 舞台設定: 彼は実際にグリニッジ・ヴィレッジの近くに住み、安アパートで暮らす貧しい芸術家たちの姿を日常的に目にしていました。これがそのまま『最後の一葉』の舞台となっています。
『最後の一葉』との関係で重要な点
O・ヘンリー自身も、生前は経済的に恵まれた作家ではありませんでした。
短編を量産し続けながら生活費を稼ぐ日々で、評価はあっても安定や名声とは距離のある人生だったと言えます。
そのため、『最後の一葉』に登場する老画家ベアマン——長年評価されず、「いつか傑作を描く」と言い続けてきた人物——には、作家自身の影が重なって見えます。
① 常に「死の影」が近くにあった
O・ヘンリーは最愛の妻を肺の病(結核)で亡くしています。また、彼自身も重い糖尿病とアルコール依存症に苦しみ、常に体調不良の中にありました。 ジョーンジーが患う肺炎の描写や、死に対する独特の「諦念(あきらめ)」には、彼が実生活で直面していた「病と死への恐怖」が色濃く反映されています。
② 「二面性」と「自己犠牲」の美学
彼は「元囚人」という秘密を抱え、世間には成功した流行作家として振る舞っていました。
- ベアマンとの共通点: 昼間は酒を飲み、毒舌を吐き、うだつの上がらない生活を送りながら、心の中には「誰かを救いたい」という純粋な情熱を秘めているベアマン。この「表向きの冴えなさと、内面の高潔さ」の対比は、正体を隠して生きたO・ヘンリー自身の自画像だったのかもしれません。
③ 「傑作」への執念
ベアマンが最後に「傑作」を描いて死んだように、O・ヘンリーもまた、金銭的な困窮と体調悪化に苦しみながら、死の直前まで執筆を続けました。『最後の一葉』で描かれるのは、成功や名声ではなく、誰か一人の人生に届いた行為こそが「傑作」になるという価値観です。
それは、評価されにくい人生を生きたO・ヘンリー自身が、切実に信じたかった真実だったのかもしれません。
彼は1910年、47歳という若さで亡くなります。
短い生涯でしたが、今も読み継がれている作品群(本作も然り)は、結果として彼自身の「最後の一葉」だったとも言えるでしょう。
まとめ
今回はO・ヘンリー『最後の一葉』を、参加者の皆さんと意見を交わしながら読み進めました。多角的に読み解ける作品で、感想をシェアする中で新たな視点に気づかされることも多く、とても刺激的な時間となりました。
次回の読書会も、新しい物語と出会い、語り合えるひとときになることを楽しみにしています。初めての方も、どうぞお気軽にご参加ください!
次回作品と日程は決まり次第、こちらのブログにてお知らせします。
次回のご参加も心よりお待ちしております。

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