2026年7月、第47回目の短編小説読書会を行いました。
今回も初参加の人も多く、2部制に分けての開催となりました。参加いただいた方、ご検討いただいた方、本当にありがとうございました。
今回のテーマは三島由紀夫『橋づくし』でした。
三島由紀夫『橋づくし』のあらすじ
東京・築地の料亭に集う四人の女性を中心に描かれた物語です。中秋の名月の夜、一晩のうちに七つの橋を無言で渡りきるという古い言い伝え「橋づくし」に挑みます。誰とも口をきかず、後ろを振り返ることなく七つの橋を渡り終えれば願いが叶う――そんな俗信を信じ、それぞれが胸に願いを秘めて歩き始めます。
願いは人それぞれです。42歳の芸者・小弓は「お金が欲しい」と願い、満佐子は恋人のRとの結婚と幸せな家庭を夢見ます。かな子は誠実な夫との結婚を望み、最近働き始めた女中のみなだけは、自らの願いを最後まで明かしません。
道中、それぞれの前には思いがけない障害や誘惑が現れ、沈黙を守り抜けるかどうかが試されます。知人に呼び止められそうになったり、予期せぬ出来事に遭遇したりする中で、四人の運命は少しずつ分かれていきます。
最終的に、願いを叶えられる者と叶えられない者が生じ、各人の秘めた欲望や打算、そして人生の皮肉な結末が浮かび上がる構成になっています。表面的な儀式性の裏に、女たちの虚栄心や執着を静かに描き出した作品です。
初読の感想のシェア
初読の感想シェアでは、「自分が審査員になったつもり」で作品を評価してみるところからスタートしました。参加者それぞれの視点から率直な感想が出てきて、作品への入り口として面白い時間になりました。

(トレーダー)
★★★★★
三島由紀夫というと過激なイメージがあったがいい意味で違った。展開が面白くて読みやすかった。じめっと終わる余韻も個人的にはよかった。

Mさん
(看護師)
★★★☆☆
すっきりしない終わり方が好みではなかった。ぎゃくにみなの願いがドロドロとしたものだったら面白いかもしれないと思った。

(大学職員)
★★★★☆
不敵な終わり方は気になった。みなが何を願ったのか想像してみたがみんなの願いを阻止したかったのかもしれない。冒頭の浄瑠璃(近松門左衛門の浄瑠璃(人形浄瑠璃)『心中天網島(しんじゅう てんのあみじま)』)は橋が生と死の境界として印象的に描かれており、これをイメージに重ねているのかもしれないと思った。

(漫画家)
★★★☆☆
ストーリーがわかりやすい。橋づくしに参加する4人の女性のキャラクターがきちんと描き分けられていてよかった。オチが想定通りだったのはちょっと残念。誰の視点の物語かもよくわからずデスゲームでもなかった。

(広告業)
★★★☆☆
引き込まれるような描写がなかった。願掛けなのにマリア様が出てきて、この時代の宗教感覚がわかるようで面白い。物質的な願いをした3人が叶わなかったということなのかな?と感じた。

(事務員)
★★★☆☆
三島由紀夫はいくつか読んだことがあるが、肩ひじ張らずに読めるなと思った。この願かけは意外とハードルが高く、難しそうだなと思った。

★★★★☆
構成が秀逸で完成度の高い作品だと思います。短いながらも4人のキャラクターがきちんとわかるし、女性同士のリアルな攻防を感じられる作品だと思いました。
今作の選定理由
今回の読書会では、村上春樹の三島由紀夫『橋づくし』を取り上げました。
今回『橋づくし』を選んだ理由は、七夕の季節にぴったりの作品だと思ったからです。
七夕は短冊に願いを書いて未来への想いを託す日です。『橋づくし』でも、中秋の名月の夜に七つの橋を無言で渡りきると願いが叶うという言い伝えのもと、四人の女性がそれぞれの願いを胸に歩き続けます。
「何を願うか」は、その人が人生で何を大切にしているかを映し出します。お金、結婚、家庭、そしてまだ言葉にならない願い――願いの違いから、その人らしい価値観や生き方が見えてきます。
七夕に願い事をするように、この作品を通して「自分なら何を願うだろう」「今、本当に叶えたいことは何だろう」と考える時間になればと思い、『橋づくし』を選びました。
三島由紀夫の略歴と作風
三島由紀夫(1925〜1970)は、戦後日本文学を代表する作家です。本名は平岡公威(ひらおか きみたけ)。小説、戯曲、評論など幅広いジャンルで活躍し、『仮面の告白』『金閣寺』『潮騒』『豊饒の海』四部作など、現在も国内外で高く評価される作品を数多く残しました。
三島由紀夫の略歴
東京で生まれ、幼い頃から文学に親しみ、東京大学法学部を卒業後、一時は大蔵省に勤務しました。しかし作家活動に専念するため退職し、次々と話題作を発表します。1968年には民間組織「楯の会」を結成し、日本の伝統や国家について積極的に発言するようになりました。1970年、自衛隊市ヶ谷駐屯地で演説を行った後、割腹自決。45歳という若さでその生涯を閉じました。
三島由紀夫の作風
三島由紀夫の作品は、美しい日本語による情景描写と、人間の内面を鋭く描く心理描写が特徴です。「美と死」「愛と欲望」「伝統と近代」「理想と現実」といった普遍的なテーマを数多く扱い、日本の伝統文化や四季、風習を物語に巧みに取り入れています。一方で、登場人物の価値観は単純な善悪では割り切れず、多様な解釈ができる作品が多いことも魅力です。そのため、読書会でも一人ひとり異なる感想や価値観が生まれやすい作家と言えます。
「意味がないかもしれないこと」の取り扱い方
三島由紀夫『橋づくし』では、願掛けに挑戦する四人の女性たちが描かれます。願掛けをしたからといって、願いが叶う保証はありません。それでも彼女たちは、自らの願いを信じ、中秋の名月の夜に七つの橋を渡るという願掛けに真剣に挑みます。
私たちも、お守りを持ったり、おみくじを引いたり、初詣で願い事をしたりと、日常の中でさまざまな願掛けをすることがあります。科学的な根拠があるかどうかではなく、「願いを叶えたい」という気持ちが人を行動へと駆り立てるのかもしれません。
そこで読書会では、「願掛け」について、それぞれがどのように考えているのかを参加者同士でシェアしました。
参加者からは、願掛けにまつわるさまざまなエピソードが挙がりました。
「商談では、取引先のコーポレートカラーに合わせたネクタイを締めていく」「ライブのチケットが当たるように神社へお参りに行く」「大切な試合の前にはルーティンとして神社を参拝する」「占いは都合のいい結果だけ信じるようにしている」など、願掛けとの向き合い方は実にさまざまです。
共通していたのは、「願掛けそのものに絶対的な力がある」と信じているというよりも、願掛けをすることで気持ちを整えたり、自分の背中を押したりするきっかけとして捉えている人が多かったことです。願掛けは、結果を保証するものではなく、自分自身と向き合い、一歩を踏み出すための儀式のような役割を果たしているのかもしれません。
まとめ
今回は三島由紀夫『橋づくし』を、参加者の皆さんと意見を交わしながら読み進めました。多角的に読み解ける作品で、感想をシェアする中で新たな視点に気づかされることも多く、とても刺激的な時間となりました。
次回の読書会も、新しい物語と出会い、語り合えるひとときになることを楽しみにしています。初めての方も、どうぞお気軽にご参加ください!
次回作品と日程は決まり次第、こちらのブログにてお知らせします。
次回のご参加も心よりお待ちしております。

コメント